最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#85 第二十話「思いつきの質問」


「という訳で、スイレンがお姉様を狙う理由が分かったぞ」

 文字通り命懸けで得た情報をノーラに話す。

 フィンランディ公爵家は魔法の才能を何よりも重視している。  スイレンの才能を見初めて一度は婚約したが、すぐ後に彼女よりも才能に恵まれた人物に出会い、その結果婚約破棄をするに至った。

 その人物はスイレンより年下で、同じ水魔法の使い手。

 スイレンにとってよほどショックだったのだろう。  フィンランディ公爵家の名前を出した時の、彼女の表情の崩れ具合から見ればよく分かる。  この騒動がトラウマとなり、彼女は自分より年下で、才能ある水魔法の使い手を潰す悪魔へと変貌してしまった。

 フィンランディ家・現当主の妻は水魔法の使い手だったと記憶している。  これまで気にも留めていなかったが、一連の情報と統合するとそこに意味が生じる。

 スイレンの婚約者は、フィンランディ公爵家の現当主で間違いない。  年齢的にも一致している。

「……一応聞くけど。それ、どういう方法で聞き出したの?」 「直接聞いた」 「何もされなかった?」 「いや。踏み殺されたよ」

 橋の下でノーラにそう告げると、彼女は微妙な表情を浮かべた。  あまり自分の身を危険に晒す行動はしてほしくないが、散々我が儘を言った手前、これ以上強くは言えない……といったところだろうか。

 曖昧な情報を本人に尋ねるというやり方は私の常套手段だ。  そこで秘密を知る者として殺されたとしても、情報だけは持って帰れる。  私にしかできない情報収集術だ。

「私のことは心配するな。それより、スイレンを殺さずに止める方法を思いついたんだ」 「本当?」

 スイレンの凶行から始まったループも、もうかなりの回数に達している。  ――そろそろケリを着けたい。

「本当だ。ただ、障害がある」 「分かった。一緒に考えよう!」

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 私が思いついた作戦は至極簡単。  スイレンがああなってしまった原因を作ったフィンランディ家当主を、彼女の前に連れてきて謝罪させる。  凶行が止まるかは実際にやってみなければ分からないが、殺す以外の方法では一番可能性を感じている。

「なるほど。確かにいいかも!」 「問題は、どうやってフィンランディ家に協力してもらうか、だな」 「ソフィーナも同じ公爵家なら、お願いしたらいけるんじゃないの?」 「いや。まともに話も聞いてもらえないと思う」

 同じ公爵家だが、イグマリート家とフィンランディ家の仲は決して宜しくない。  いや、はっきりと悪い。

 イグマリート家は四大公爵家の中では最も歴史が浅く、他の三家からは何かと見下されがちだ。  彼らを見返すべく、父は家の繁栄に心血を注いでいる。  他の三家が嫌がったオズワルドとの婚約にお姉様を喜んで差し出したのは、彼らを出し抜いて王家との繋がりを保ち優位に立ちたいという理由からだ。

「いがみ合っている家の娘がのこのこやって来て『スイレンに謝れ』なんて言ってもつまみ出されるのがオチだ」 「確かに難しいね……」 「という訳で、これを実行するには何か他の策が必要だ」 「フィンランディ家には子供はいないの?」 「いるぞ。男が二人、女が二人」 「どんな人たちなの?」 「端的に言うと魔法バカだな」

 次男とはそれなりに関わりがあった。  魔法の実力でしか他人を測れない奴で、人生をループして体得した私の魔法技術をフィンランディ家に取り入れようと毎回婚約を迫られていた。  オズワルドとはまた違った意味で腹立たしい物言いをする奴だ。

「フィンランディ家全員がそうなの?」 「ああ。あの家は魔法が全ての価値観の中心だからな」

 魔法を使えない奴は下民であり、魔法を使える自分たちは高貴な存在だと信じて疑っていない。  そういう気質も含めて折り合いがつかない家だ。

「そっかぁ。仲良くなって子供たち経由でお願いできたらと思ったけど、難しそうだね」

 子供たちから攻略する、というノーラの着眼点は悪くないが、それで当主が素直に従うとは――

「――いや、待てよ」 「何か思いついたの?」 「子供と仲良くなるんじゃなくて、誘拐して脅せばいいんじゃないか?」 「怖いこと言わないで!?」

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 時は流れ、幾度かのループを経た。  現在、お姉様はスイレンから魔法を学んでいる。  ミレイユに基礎を学び、オー爺で微妙な授業を受け、そして今はスイレン、という流れだ。  罠であるオー爺を間に入れているのは時間稼ぎ+魔法書をお姉様と一緒に読むというイベントのためだ。  あのキラキラした目のお姉様は眼福モノで、これだけのために回り道をする価値がある。

「ああああ、何も思い浮かばない」 「何か言ったか? ソフィーナ」 「いえ、何でもありません」 「ならさっさと行くぞ!」

 オズワルドに手を引かれ、私は王宮を歩いていた。  勉強が一段落したので、息抜きとして遊んでいるのだ。

 オズワルドの進捗は順調そのもの。  だからこそ、お姉様を阻むスイレンが余計に腹立たしい。  このイベントさえ乗り越えられたら、一気に先が開けるというのに……!

 この数年、フィンランディ家に協力してもらうため試せることは試し尽くした。

 子供をノーラのお菓子で釣り、誘拐したように見せかけて(いわゆる狂言誘拐というやつだ)をして脅迫状を送ろうとしてみたり。  当主の浮気の証拠を掴み、妻に告げ口されたくないなら――と脅してみたり。  門の前に居座って頼み込んでみたり。  外部の人間を使って協力を仰げられそうな人物に頼んでみたり。

 しかし、どれも実を結ぶことはなかった。

 狂言誘拐は失敗。男連中はお菓子が好きではなかった。  唯一、末の娘は釣れそうだったが鋼の精神力で突っぱねられた。

 浮気に関しては「好きにしろ」だった。  どうやら妻公認だったらしい。

 門の前に座り込みは「邪魔」の一言で片付けられた。  しかも父からは「みっともない真似をするな!」と大目玉を食らった。

 唯一いけそうなのは外部の人間を使う方法だが、フィンランディ家当主が言うことを聞くような人間はエルヴィス陛下くらいしかいない。  しつこいと怒られてしまうくらいにお願いはしてみたが、陛下が首を縦に振ることはなかった。

「オー爺! 遊びに来たぞ!」 「こんにちは」 「オズワルド殿下、ソフィーナお嬢様。ようこそいらっしゃいました」

 オズワルドが遊ぶときはだいたい裏の庭園だ。  以前までオー爺は背景と同化している存在だったが、お姉様の家庭教師を頼んだ後は世間話をする程度の仲にはなっている。

「お二人はいつ見ても仲がよろしいですなぁ」 「まあな! 何せソフィーナは僕の虜だからな!」 「もちろんですー!」

 そういう設定でお姉様から婚約者の座を奪った訳だが、オズワルド側から言われるとなんとも腹が立つ。  誰がお前なんか好きになるか、と心の中で舌を出しながら笑顔を取り繕う。

「ところでオー爺さま。気になっていたことを聞いてもいいですか?」 「ほっほっほ。何でも言って下され」 「オー爺さまのお名前は何て言うんでしょう?」

 不快な会話から話題を方向転換させるための、単なる思いつきの質問。

「教えてやろうソフィーナ! オー爺の本名はめちゃくちゃ格好いいんだぞ!」 「殿下。お待ちくだされ」 「確か……オーガスタス・!」 「――え?」

 オズワルドの言葉の意味を理解すると同時に、ウインドウが現れた。

『オーガスタスにレイラを守らせますか?』  はい  いいえ

 ――それがこのループを解く鍵になるなんて、誰が予想できただろうか。