最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#163 第十話「ラブラブカップル」


 入学式のため、私はひと足早く家を出てオズワルドと合流した。  今日という日のため、普段よりも一段ときらびやかな衣装を身にまとうオズワルド。  見てくれだけはさすが乙女ゲームの攻略対象、といったところだが……。

「どうだソフィーナ! 今日のために新調したとっておきだ!」

 口を開けば途端に残念なクソガキになってしまう。  こちらとしては何度も見た衣装だが、何か感想を言わないとスネてしまう。  笑顔の仮面を装着し、オズワルドがいかにも気に入りそうないい感じの返答を口にする。

「さすがオズワルド様! すてき! かっこいい! 無敵!」 「ふふん! そうだろうそうだろう!」 「さあ、行きましょうか」

 いい具合におだてつつ、共に馬車に乗り込む。  神々が定めたゲームの舞台となる場所、ハモンズ王立学園へ。

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 学園の正門をくぐり、馬車から降りる。

「ソフィーナ見てみろ! あれが校舎だ!」

 貴族が通うということもあり、学園の設備は当然ながら充実している。  座学を主とした本校舎、王宮の書庫にも引けを取らない図書館、あらゆる武器の使い方を学べる鍛錬館、楽器の練習ができる音楽館、ダンス等、多目的に使用される舞踏館。魔法を実践できる魔法館。  他にも、色々な施設が存在している。

 オズワルドが指差しているのは、最も大きな本校舎だ。  学園の敷地からならどこからでも見えるほど大きいので、学生たちの目印となっている。

 私にとってはオズワルドの衣装以上に見慣れた校舎だ。  しかも嫌な思い出が大半を占めるので、見たところで前向きな気持ちが起きるはずもない。  そんな気持ちをぐっと我慢し、可愛らしさを意識しながら両手を胸の前で合わせる。

「わぁ〜、大きくてきれいですね!」 「僕の学び舎に相応しいな!」 「入学式は……舞踏館で行われるんですね。行きましょう」

 オズワルドを誘導しながら、入学について考えを巡らせる。  お姉様の入学をしっかり見られないのは非常に残念ではあるが、先のことを考えると、これで良かったのかもしれない。

 お姉様の幸せを邪魔する存在・オズワルド。  こいつが本格的にのは学園に入った後だ。

 オズワルド自身が政治的に無価値でも、「王族」というだけで利用価値はいくらでもある。  これから彼を利用しようとする輩――主に、他国の間者や反アレックス派の貴族たち――は無数に現れる。  そしてこの脳天気男は、相手がどういう奴かを精査することなく、知っていることをべらべらと話す。  それは将来、お姉様を追い詰めることになったり、内乱を誘発したり、戦争を起こす引き金になる。

 間者や反アレックス派の貴族は既に学園の中にいる。  そいつらを牽制するいい機会だ。  ここでオズワルドとの仲を存分にアピールし、入る隙がないことを知らしめれば……今後のシナリオも少しは楽になるはずだ。

「オズワルド様っ。ぎゅー」 「いきなりなんだ。僕の邪魔をするな!」 「すみません。こうしてくっ付かせてもらってもいいですか? 人ももっと増えてきますし、はぐれちゃわないか不安で……」 「よくない! 歩きにくいだろ!」 「……」

 行動を制限され、オズワルドは不機嫌そうに睨んできた。  これしきのことで腹が立ってはこいつとはやっていけない。  幼少期から接してきたおかげで、こういった場合の制御方法も分かっている。

「お願いします。オズワルド様だけがなんです」 「……仕方ない! そこまで言うなら腕を組むことを許可してやる!」 「ありがとうございます! 優しいオズワルド様、大好きです♡」

 ゲボォ!  喉の奥にせり上がってきた酸っぱい液を飲み下しながら、オズワルドの腕に頬をすり寄せる。

 端から見れば入る隙の無いラブラブな婚約者に見えるはずだ。  なかなかのダメージは負ったが、これで今後楽ができると思えば大したことはない。

「もたもたするな! 僕に歩幅を合わせろ!」 「……」

 大した……ことは……ない!

 ▼ ▼ ▼

 入学式は思っていたよりもつつがなく終了した。  いつもならよからぬことを考える輩がオズワルドに声をかけてくるが、今回はそれもなし。  ラブラブカップル作戦(死)の効果はてきめんだったようだ。

 ただ、それで諦めてくれるほど甘い敵でないことも分かっている。  私が入学するまでの二年間、オズワルドに目が届かない時間ができてしまう。  こればかりはどうしようもないので、オズワルドに変化がないかをしっかり見つつ、必要に応じて釘を刺していこうと思う。

(あとは親善試合だけだ)

 親善試合は、新入生のレクリエーションの一環として行われる。  模擬試合をして親交を深めつつ、学園の施設の使い方も楽しみながら学ぶことができる。  イベント自体は高確率で発生するが、馬車とは違い誰かの悪意が介入したものではない。  単に整備不良の木刀が試合中に折れ、お姉様の喉に直撃する不幸な事故だ。

 事故の元となる木刀を隠してしまえば起きようがない。

「オズワルド様。少しだけ探検してみませんか?」 「探検か……面白そうだな!」

 単に「行きたいところがある」と言うと反発されそうだったので、オズワルドが気に入る語彙を使用する。  案の定、ホイホイと誘いに乗ってきた。

「さっき面白そうな場所を見つけたんです」 「よし! 案内しろ!」

 オズワルドを連れ、武術館の備品倉庫へと足を運ぶ。  普段は施錠されて入れないが、今日だけは鍵がかかっていない。

「ちょっと暗いな……それに臭いぞ!」 「けど、なんだか秘密基地って感じでワクワクしませんか?」 「そうかぁ?」

 ブーブー言うオズワルドをなだめつつ、さっさと木刀置き場を確かめる。  目的のひび割れが入った木刀はすぐに見つかった。  それを誰の目にも届かなさそうな奥に押し込む。

 これでよし。

「ソフィーナ! やっぱりここは嫌だ!」 「そうですね。出ましょうか」

 タイミング良くオズワルドがグズり出したので、それに乗るように外へ出る。

 ――入学式イベント、クリアだ。

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「ソフィーナ。それにオズ」

 晴れ晴れとした気持ちでお姉様の親善試合の見学に向かっていると、アレックスと出会った。  相変わらず王のオーラが溢れていて、無意識に膝をついて頭を垂れそうになる。

「アレックス様。ごきげんよ」 「兄上!」 「ぶべっ」

 私を押しのけてアレックスに飛びつくオズワルド。

「兄上! 僕、ちゃんと入学できたぞ!」 「ああ。しっかり見ていたよ。偉いなオズ」 「へへ!」

 精神年齢が違いすぎて、もはや親子の会話と思えてしまう。

「ソフィーナも、いつもありがとう」 「いえいえ。それより、こんなところでどうされたんですか?」 「レイラにも挨拶をしておかないとと思って。ほら、たまにオズの相手をしてもらっているし」

 ――ははあ、と私は察した。  要するに、理由を付けてお姉様に会いたいらしい。  妙な輩ならともかく、アレックスなら大歓迎だ。  もっとグイグイ行ってほしいが、いつものヘタレ具合から考えるとこれでもかなり進歩している。

「お姉様は武術館にいますよ」 「武術館ということは、親善試合か」 「はい。私も行こうとしていたんですよ。よかったらご一緒しませんか?」 「ああ」 「兄上! 僕も行く!」 「わかったわかった」

 オズワルドとアレックスを連れて校舎をぐるりと迂回する。  入学式が無事に終わっただけではなく、アレックスとの仲も順調に進められている。  良い傾向だ、と私は心の中で、ぐっ、と拳を握った。

 意気揚々と扉を開けた先で、私たちの目に飛び込んできたものは。

「――え」

 燃え盛る炎に抱かれて踊り狂う、お姉様の姿だった。