最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#17 第二話「婚約者を横取りする妹作戦」


 お姉様の生存にはオズワルドが不可欠だ。  もちろん、必要なのは腑抜けたオズワルドではない。  彼の兄アレックスとまではいかなくとも、相当な優秀さを持ってもらわなければならない。

 前回までは洗脳という方法で優秀なオズワルドを確保していた。  繰り返しになるが、この方法では最終的に詰んでしまう。

 ならば回りくどくとも、育てるしかない。  ……実はこの方法、洗脳の前に一度試している。  そのときの時間軸は学生になった頃。  逃げるオズワルドを捕まえ、講義や訓練をサボらせないというやり方だった。  それが駄目だったから洗脳に切り替えたのだが、方法は合っていたのだ。

 ただ、始める時間が遅すぎたというだけ。  今回は私が家庭教師となり、みっっっっっっちりと必要な知識と技能を叩き込む。  ついでに、このどうしようもない性格の矯正も。

 そのためにはまず、私とオズワルドの接点を増やさなければならない。  最も確実なのは、お姉様に変わりオズワルドの婚約者になること。  この会に私が参加した理由はそれだ。

「ひ、一目惚れ……?」 「はい! かっこよくてたくましくて、なによりその意思の強い目のとりこになりました! わたしとけっこんしてください!」

 おぇー!

 無邪気な笑顔の裏で、胃の奥からこみ上げる何かを必死で我慢する。  嘘は上手になったが、さすがに一ミリも思っていないことを口にすると吐きそうになる。

 特にオズワルドに対しては好意より殺意の方が大きい。  こんなクソ野郎、さっさと池の底に沈めたいが……お姉様の生存のためには手を差し伸べるしかない。  本当に、制作者かみさまは意地悪だ。

「ソフィーナ。本気で言っているの?」

 珍しく視線を鋭くするお姉様。  心臓が、ギュ……と痛くなる。

 しかし私は気丈に振る舞いつつ、オズワルドの腕にさらに強くしがみついた。

「はい、お姉様。オズワルド様をわたしにゆずってください」

 ――未来の話だが、学園に通う頃になると決まって私とお姉様の不仲説が囁かれる。  どれだけ噂の出所を(物理的に)潰そうと、それが消えることは無かった。  それほどまでに貴族の姉妹仲は悪くて当たり前、というのが定説なのだ。

 公爵令嬢だから外面だけ仲良くしているが、実は水面下でいがみ合っている――その方が、人々は納得できるらしい。

 そんな世論を反映して、未来の世界では仲の悪い姉妹の物語が流行していた。  今回の作戦は、その物語を参考にさせてもらっている。

 名付けて『婚約者を横取りする妹』作戦だ。

 オズワルドの性格矯正は並大抵の方法では叶わない。  だからこそ、幼少期のこの頃から鍛えておかなければならない。

 これもお姉様のため。  お姉様が生き延びられるのなら……クソ野郎の婚約者になることも、お姉様に嫌われることも……何てことは無い。

「ソフィーナ。たわむれもそれくらいに――」 「まあまあ、良いではないか」

 見かねた父が私を睨むが、それを止めたのは……意外なことに国王陛下だった。

「こちらとしてはレイラ嬢、ソフィーナ嬢のどちらがオズワルドの婚約者になってくれても構わんぞ」

 陛下の目的は、オズワルドを私たちの家との繋がりに使うため。  お姉様でも私でも、婚約さえできればいいと思っているのだろう。  思わぬ助け舟に、お父様も口を噤んだ。

「お願いを聞いてくださりありがとうございます陛下」 「なに、構わんさ」 「それで……もしよろしければ、なのですが。お姉様をアレックス殿下の――」 「それはならん」

 続く言葉をぴしゃりと遮られた。  あわよくば、この時点でお姉様とアレックスを婚約させられればと思ったが……さすがに無理か。  王族と公爵家は密接な関係にあり、私たち姉妹が王族の兄弟を独占すれば他の公爵家が黙っていない。

 私が一度にできることは限られている。  欲張って足元を掬われては意味が無い。  今はこれで我慢するとしよう。

「オズワルド様、これからよろしくお願いします♪」 「ふ、ふん! しっかり僕を支えるんだぞ!」

 偉そうにふんぞり返るオズワルドに、私は笑みを浮かべた。

「もちろん。しっかりと支えさせて頂きますよ。、ね……」

 ▼

「ソフィーナ。入るわよ」

 その日の夜。  寝間着姿のお姉様が、私の部屋にやってきた。

「おねーさま。勝手なことをしてごめんなさい」

 理由はどうあれ、お姉様からすれば婚約者を奪われたことに変わりはない。

「それはいいのよ。私はオズワルド殿下を……そういう目ではまだ見れないし」

 この年齢のお姉様にはまだ『自分がオズワルドを支えなければ』という意識はない。

 これが芽生えると厄介だ。  たとえ円満に婚約を解消しようとしても、心が不安定になってしまう。  それを防ぐためにも、このタイミングでオズワルドを奪うことは必須だった。

「本当にオズワルドに一目惚れしたの?」 「はい」

 明瞭に答える私を、じぃー、と見やるお姉様。

「あなた、何か私に隠していない?」 「なにもかくしてません」

 じぃー。  姉は疑いの眼差しを向けている。  理由は分からないが、何かを隠しているように見えるのだろう。

 お姉様は私のことになると勘が鋭くなる。

「お父様やお母様からああしろって言われたの? もし嫌々そうしているなら私から言うわよ」 「いいえ、本心です」 「…………なら、いいけど」

 お姉様は心配してくれている。  常に自分のことは二の次。  何度繰り返しても、お姉様はお姉様だ。  その優しさに潤む目元を誤魔化すように、私はお姉様に飛びついた。

「わっ」 「おねーさま。今日は一緒にねませんか?」 「仕方がないわね……今日だけよ?」

 やれやれ、と私の頭を撫でるお姉様。  二人で他愛のない話をしているうち、私たちはどちらからともなく眠りについた。

 明日から、オズワルドをみっちりと鍛えなければ。

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