最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#16 第一話「よくある妹ムーヴ」


「――って意気込んだのにこのザマか」

 見慣れすぎたくらいに見慣れたベッドの上で、私は胡乱うろんげなため息を吐いた。  ピンと伸びた髪を掻きむしり、柔らかな布団の中に顔を埋める。

「クソが。失敗した」

 オズワルドの人格を思い通りのものに入れ替え、  関係が悪化する他国との関係を良好に保ち、  さらに国内で発生するいくつものフラグを叩き折ったのに。

 それでもお姉様は死んだ。死なせてしまった。

 戦争イベントの相手は複数存在している。  その中で最も厄介な相手が、西大陸の国だ。  西大陸はこちらよりも遙かに進んだ技術を有している。  ひとたび戦争になれば、万が一にも勝ち目はない。

 絶対に回避しなければならない。

 戦争の鍵を握るのはオズワルドだ。  あいつがうっかり女間者スパイに自国の情報を渡したり、他国でナンパを断られたと暴れたり、奴隷禁止の国で胸の大きな女奴隷をこっそり買ったりしなければ戦争は起こらない。

 そういう前提のもと、今回の人格操作術を用いてオズワルドの行動を全て掌握した。  彼の『うっかり』の可能性をゼロにし、さらに外交官として利用することで悪化する隣国との融和も果たした。

 ――しかし、西大陸との戦争は回避できなかった。  どうやら隣国の戦争と西大陸の戦争は別フラグのようだ。

「ルートを考え直す必要があるな」

 お姉様が二十二歳まで生きられるルートを発見したものの、あらゆるフラグの組み合わせを試しても突破できない壁があることが今回で確定した。  となると、これまで定型化できていたルートをまるごと構築し直さなければならない。

「チッ……厄介極まりないな」

 舌打ちし、眉に皺を寄せる。  神の言葉を借りるなら、この世界はまさにクソゲーだ。

「ソフィーナ。起きて……あら」 「おはようございます、おねーさま」

 扉が開く僅かな時間の間に、私は表情を素早く切り替えた。  口調を五歳用に調整しつつ、愛しい姉に向かって、にぱ、と微笑む。  「本来の私」と「年齢相応の私」の使い分けも随分と上手くなったものだ。

「おねーさま。ぎゅー」 「はいはい。ぎゅー」

 途方もない時間をやり直してきたが、辛いと思ったことはない。

 お姉様に幸せな人生を歩んでもらう。  そのためなら何でもするし、誰でも犠牲にする。

 ▼

 私がやり直しを開始するのはオズワルドとお姉様の初顔合わせの日だ。  実は、その会に私も参加できる。

 『オズワルドとの顔合わせに参加しますか?』  はい  いいえ

 透明で薄い板に現れた選択肢。  神の世界を経ることで得た、運命を選択する能力によるものだ。  これが無ければ、参加できることも気付かなかった。

 現れた選択肢に「はい」と答える。  いつもならここで「いいえ」を選ぶが、今回は別のルートに行くためだ。

「――いい機会だ。ソフィーナも王宮に連れて行こう」 「はい、おとーさま」

 ルートが変更され、顔合わせに私も参加することになった。  ……実を言うと、このルートを選んでもその後の展開にあまり意味はない。  せいぜい、早くお姉様とアレックスをくっ付けられる程度のものだ。  しかし今回は違う。  このルートに行くことこそが、今回のキモとなる。

 ……少しばかり、お姉様に嫌われるような行動を取る必要があるが。

 ▼

 オズワルドの行動を制限する手段として、二つの方法を考えた。  一つが洗脳。  これはもう無理だと分かった。  一から百までを細かく『設定』する必要があり、予想外の事態になるとすぐに命令待機状態になってしまう。  暗殺者が王宮に潜入したのに定位置(屋敷の椅子)にノコノコと戻ってきたオズワルドに何度殺意を抱いたことか。

 人格の消去はある場面では有効に働くが、それ以外では足枷にしかならないことがよーーーーく分かった。

 ――なら、もう一つの方法を採るしかない。

「おねーさま」

 顔合わせの場にて。  私はお姉様を押し退け、オズワルドに腕を絡ませた。  お姉様と同様、彼もおめかしして豪華そうな衣装を身に纏っているが……どうも衣装に『着られている』感が拭えない。

「な、なんだこいつは! 離れろ!」

 まだ声変わり前の甲高い声で、オズワルドが私を振りほどこうとする。

「ぎゅー、すりすり」 「お……おふ」

 腕に力を入れ、二の腕に頬を寄せると簡単にオズワルドは大人しくなった。  まだ七歳のクソガキだが、女好きという本質は変わっていないようだ。

 ……今はせいぜい利用させてもらおう。

「おねーさまだけずるい! こんなすてきな方と婚約できるなんて」 「……ソフィーナ?」

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。  困惑するお姉様に心の中で謝り倒しながら、私は思ってもいないことを口にする。

「彼にひとめぼれしました! 私とオズワルド様を婚約させてください!」 「――へ?」

 お姉様はもとより、その場に居た全員――オズワルドやアレックス、お父様、国王陛下の目も……みんな、点になった。

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