最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#31 第五話「言い訳」


 裏道から家の外へ出た私は、思案しながら城下町をぶらついた。

(さて、どうしたものか……)

 父への対策を取ろうとは言ったものの、有効な手段がない。

 浮気をネタに脅しても、動揺を誘うだけで最終的には有耶無耶にされてしまう。  それどころか逆上し、今後の行動を大幅に制限されてしまうだろう(経験済み)

 五歳の私では、あの狡猾な男を完全に追い詰めることはできないのだ。

(他の方法は……思いつかないな)

 今日だけ切り抜けるならなんとかなるが、お姉様の動向を探るためにはずっとサボる必要がある。  私が婚約者に相応しくない行動を取り続ければ、遠からず婚約の件は解消されてしまうだろう。

 この年齢の私が自力でできることは本当に少ない。  どんな情報を握っていたとしても、大抵は子供の戯れ言と聞き流されるか、もみ消されるかだ。  やれることと言えば基本的に成長した後のための種まきのみ。  頼れるような人脈もないし、力もない。

 残る手段は――やり直しを駆使した力技のみ。

(仕方ない)

 追求が激しくなるまでサボり続け、いよいよダメとなったらやり直しで戻る。  そして同じ人生を繰り返し、前回ダメになったところまでは真面目に勉強をして、それ以降はサボる。

 ……これを繰り返せば、擬似的にだがお姉様をずっと見張っていることになる。  時間はかかるが、今思いつく策はこれくらいしかない。

「とりあえず今日の分の言い訳を考えないとな」

 方針が定まり、噴水の縁から腰を上げる私のすぐ前に、見覚えのある馬車が急制動をかけて止まる。  勢いよく中から出てきたのは――

「ソフィーナああぁぁあ!」

 ――何故か目尻に涙を溜めているオズワルドだった。

 ▼

 どうやら家庭教師から今日、私が休むと聞いて家まで来ようとしていたらしい。

「初日から僕との勉強会をすっぽかすとはどういう了見だ!?」 「えーと。申し訳ありません」

 肩をがっしり掴まれ、ガクガクと揺さぶられながら私は表向き申し訳なさそうな表情を取り繕う。

 誘拐イベントを利用し、オズワルドとの信頼を構築した。  人格の入れ替えという手段ではなく、オズワルド自身に優秀な駒となってもらうために。  これも将来に必要な種まきの一つだ。  ……しかし、こうも懐かれるとかえって動きづらい。

 これまでの人生で、五歳から婚約者がいる人生はなかった。  そして両親からの期待も受けずにいた。  だからある程度、自由な行動をしても目を向けられることはほとんどなかった。

 しかし今の私はオズワルドの婚約者だ。  それが逆に仇になっている。

「まさか浮気か!? この僕の何が不服と言うんだ!?」

 全部だ全部――と言いそうになる口を慌てて押さえる。  というか、こんな人の目のあるところでぎゃあぎゃあ騒ぐな。

 ……まずは落ち着かせて話ができる状態にしよう。

「オズワルド様。ぎゅー」 「おふ……」

 正面から抱きしめると、オズワルドは途端に大人しくなった。

「少し落ち着きましたか?」 「う、うむ」

 胸の中で、金色の髪が僅かに動く。  オズワルドは私の胸に頬を押し付け、はふぅ、と息を吐いた。

「まだ大きくないが、将来性を感じる」 「……」

 うっかり投げ飛ばしたくなる衝動を抑え、私は努めて笑顔を維持した。

「今日は申し訳ありませんでした。予定を確認し間違えていたんです」 「そ、そうか。ならば特別に今日だけ許してやる! 僕は寛大だからな!」

 すっかり機嫌を直したオズワルドは、偉そうに腕を組んでそう宣言した。

「――というか、こんなところで何をやっていたんだ?」 「ちょっと今後の人生について考えていまして」

 適当にそう答えると、オズワルドは胸を張ってふんぞり返った。

「それなら安心するがいい! なんてったってお前は僕の妻となるんだからな! 輝かしい将来は約束されたも同然だ!」 「……わーい」

 控えめに喜ぶフリをすると、オズワルドはさらに胸を張った。

「この僕のハンリョになれるなんてお前は幸せ者だな! あ、ハンリョっていうのは結婚する人のことを指すんだぞ!」 「そうなんですね。さすがオズワルド様は物知りですー」

 おそらく今日教えられたであろう知識を得意げに披露してくる。  反射的にオズワルドを持ち上げつつ、頭の中は別の方へ思考が切り替わっていた。  今日の、父への言い訳だ。

(私がうっかり予定を聞き間違えて、今日は休みだと勘違いしたことにする――それですんなり納得してくれればいいがな)

 完璧に取り繕うならもっと手の込んだ嘘のほうがいいが、経験上、嘘は単純な方がボロが出にくい。  「婚約者としての自覚が云々~」と説教を食らうだろうが、甘んじて受け入れよう。

 その程度で済むなら万々歳だ。

「オズワルド様。今日は申し訳ありませんでした。明日からまた――!?」

 話を切り上げようとする私がオズワルドの方向を向くと。  二人の間を、唐突に何かが遮った。

『オズワルドに協力を要請しますか?』  はい  いいえ

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