「オズ。二人はお前の訴えに不服のようだ」 「僕をこんな目に遭わせておいて罪逃れしようなんて、とんだ奴らだな!」
吠え猛るオズワルド。 アレックスの威光があるためか、いつもより二割増しで威張っている。 ……ちなみに当のアレックスは、玉座の上でため息を吐いている。 その様子に気付かないまま、オズワルドは私に詰め寄ってきた。
「しかし喜べレイラ! 僕は慈悲深い! お前が今後、大人しく僕の婚約者に戻るというなら妹も含めてこの件は不問にしてやる!」 「……はぁ?」
自分から婚約破棄を言い出したのに、また戻ってこい? 私のことを鬱陶しがり、外見は可愛い妹を選んだというのに? どんな心境の変化かと訝しむ。
「悪くない提案だろう? お前が大人しくなるだけでこの場が丸く収まるんだ」
やけに『大人しくなる』を強調するオズワルド。
……もしかして。 今後は一切、余計な小言は止めろ、ということだろうか。 そして愛嬌だけを振りまけ、と。
「嫌よ」 「はぁ!?」 「必要な礼儀や知識はきちんと持ちなさい。恥を掻くのはあなたなのよ」 「こ、この期に及んでまだ僕に向かって小言をほざくか!」 「小言じゃないわ。幼馴染みとしての忠告よ」 「~~! 兄上ぇ! こいつらに厳しい罰をお願いします!」
顔を熟れた果実のように真っ赤にしながら、オズワルドは振り返った。 アレックスは、ふむ、と頷きながら――ふと、思い出したように人差し指を立てる。
「そういやオズ。彼女たち以外にもこの訴状に不服のある奴がいるんだ」 「だ、誰ですか!?」 「俺だ」 「……へ?」
アレックスが自分を指すと、オズワルドの怒りの炎が一気に小さくなった。
「理由その一。レイラから婚約破棄を言う理由がない。彼女は幼い頃からお前を心配し、行く末を案じている心根の優しい女性だ。未だ子供のまま時が止まったお前を見捨ててないのは彼女くらいだぞ」 「あ……兄上?」
淡々と、アレックスは続ける。
「理由その二。お前からは婚約破棄を言う理由がある。レイラに関しての愚痴は執事やメイドを通して伝え聞いていたからな」
……愚痴を言われていたのか、私は。
「理由その三。ソフィーナに殴られたと言っていたが……彼女が暴力を振るうのはレイラが傷付けられたときだけだ」 「そ、そんなことはありません!」 「いいや、そうだ」
何故か断言するアレックス。 私は彼が苦笑する様を見て、なんとなく察した。 たぶん、彼もソフィーナに殴られたことがあるんだろう。
妹の方を見やると、彼女はこちらの胸中を察したようににこりと微笑み――拳で何かを殴る仕草をした。
「小さい頃の話ですけど、お姉様を小馬鹿にしたので軽くやっときました」 「……」
私が知らないだけで、ソフィーナの被害者は意外と多いのかもしれない。
「――とまあ、ざっと思い浮かべるだけでこれだけの理由がある」 「……ぁ」
アレックスはその後も理由を述べ続けた。 彼が言い終わる頃には、オズワルドはただ酸素を求める金魚のように口をパクパクするだけになっている。
「何か反論は?」 「あ、お――」 「オズ。どうやらお前は、王族の一員としての自覚が足りないようだ。今回の一件で私も痛感したよ」
目元を押さえながら、アレックス。 そして彼は、オズワルドへと沙汰を言い渡す。
「レイラの婚約者でなくなったのなら、もう遠慮する必要はないな。国外に――」 「お待ちください」
アレックスの声を、妹が遮った。
「オズワルド様を国外に出すのは危険です。王の血を引いてるくせにバカで軽率で女にだらしがないので簡単に奸計にハメられますよ。その被害は我が国に翻ってきます」 「な、なんだと貴様ぁ!」
勢いを失っていたオズワルドが再び怒り出す。 それを無視してソフィーナはさらに一歩、アレックスへと距離を詰める。
「君の話は分かったが、ソフィーナ。ではどうすればいいというんだ?」 「良い案があります。暴力行為をした私への罰とオズワルド様の再教育をたった一手で終わらせるとっておきの案が」 「何だ? その案というのは」
……まさか、ソフィーナ?
「簡単です。私がオズワルド様と婚約すればいいんですよ」
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