「おはよう、ソフィーナ」 「ああ」
セーブポイントから再スタートし、身体を起こす。 最初のスタート地点に戻れないことは多くのデメリットを抱えていたが、起きてすぐノーラと話ができるのは明確なメリットだ。
「何かわかった?」 「……ああ。起きているイベントも、それを引き起こした犯人も分かった」 「すごい。大躍進だね」 「けど、どうして起きたのかが分からないんだ」 「どういうこと?」
頭上に「?」を浮かべるノーラに、前回の一部始終を――母を焼き殺した事や、お姉様が死んでいることなどは省きつつ――聞かせた。
「—―という訳だ」 「起きたイベントは浮気イベント。犯人はお母さん。けど、それがどうして起きたのか分からない……」
話した内容を繰り返し、うーんと唸るノーラ。
「前に言ってた噂好きのメイドさん……ええと、名前は何だったっけ」 「リズベラだ」 「そうそう。その人の仕業とか?」 「いや。そっちはちゃんと対策していた」
浮気イベントがバレるパターンとして、大きく分けて三通りある。 一つ目は噂好きのメイド・リズベラがたまたま父の怪しい現場を目撃し、それが回り回って母の耳に届くパターン。 二つ目は父がうっかり自爆するパターン。 三つ目は私が暴露するパターン。
このうち一つ目と二つ目は失敗ルートだ。 その場はなんとかやり過ごせるが、家庭内不和によるストレスはお姉様の心を徐々に弱らせていき、後に来る舞踏会イベントを乗り越えられなくなる。
最もリスクの高いリズベラの動向には気を配っていた。 もちろん、今はシナリオを大幅に変えているので絶対にないと断言はできないが。
「ソフィーナの知らないところでお父さんがうっかりしちゃった?」 「そっちの方が可能性は高そうだな」
大喧嘩の末に流血沙汰、あるいはどちらかが死ぬ結末は、決まって父から秘密が漏れた時だ。 Bルートになったことで私の知らない父のうっかりポイントができた可能性は大いにある。
「ひとまず父を重点的に見張ることにするか。とはいえ私もオズワルドの子守があるから……」
奇病の時やったように、一度オズワルドを放置して父の監視をする回を作るか。 一回は人生を捨てることになるが。
「あーあ。私がこの家を自由に出入りできたらいいのになぁ」 「それはさすがに難しいな」 「だよねぇ」
ひとまず今回は父の監視に専念する。 そう方針を定め、私とノーラは分かれた。
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「あうあsf化sうsいdしいあー!!」 「……………………」
それから一か月後。 私は無視すると決めたオズワルドの部屋に(半ば強制的に)連れて行かれた。 ベッドの上にはこんもりと丸まった布団があり、その中から子供の奇声が聞こえる。 聞き間違えるはずもない、オズワルドの声だ。
「いぢsふぁうsふぁしふぃddsー!!」 「申し訳ありません。ソフィーナ様が来なくなってからずっとこんな状態で」 「…………」 「『ソフィーナが来ないならもう勉強も何もしない!』と言って聞かなくて……」 「ア、ハイ」
困った顔を浮かべる家庭教師に、私はぎこちない笑みを向けることしかできなかった。
なぜだ。 奇病の際も彼を無視してお姉様の動向を探ったことがあった。 あの時はワガママも言わなかったのに、なぜ――。
「—―あ」
そこで思い出した。 あの時は無視したのではなく、選択肢が出てきたんだった。 膝枕を対価として、あたかも勉強会に参加しているかのように振舞ってもらっていた。
(記憶が曖昧になっていたな)
長くループを繰り返すとこういう失敗もある。 面倒なので戻ってもいいが……。
(いや、ノーラに申し訳ないな)
連絡もなしにまたループして余計な心配をかけたくない。 挽回を試みて、どうしても無理なら後日ループすることにしよう。 私はオズワルドが引きこもるベッドの傍に近づいた。
「オズワルド様。ソフィーナです」 「ぶぞtぎ! いふtあいttじddおに!」 「ごめんなさい。どうしても外せない予定ができてしまって」 「おぎぼいさじぜくあどごnnじぇあいあごu!」 「はい。私もできればオズワルド様を優先したかったのですが、父がどうしても許してくれなくて……」 「IIばえじゅうぼびーばあnえじあいbあ!」 「そんなこと言わないでください」
うぜー。 なんてことは表に出さないまま、私はさめざめと泣く真似をした。
「私も、オズワルド様とお会いしたかったんですから」 「……ぼんど?」
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしたオズワルドの顔が、布団の端からひょっこりと現れる。
「本当です。お会いできなくてどれだけ辛かったか……!」 「……」 「やっぱりまだ許せませんか? なら、罪滅ぼしにあれをさせてください」 「…………わがった」
ゆっくりと身体を起こすオズワルド。 説得成功だ。
▼
「さ、オズワルド様」
家庭教師に外してもらうよう頼み、二人きりにしてもらった。 私は断りを入れてからベッドに腰かけ、膝を叩いた。 対オズワルド用最終兵器・膝枕だ。
「ぐす」
オズワルドはしゃくり上げながら、素直に膝へと頭を乗せた。
「よしよし」
こうして頭を撫でておけば機嫌は直るだろう。 これはこれでいいんだが。
(父の監視はどうすればいいんだ?)
オズワルドに好かれるよう好かれるよう行動した結果、かなり依存されてしまっている。 腹が立つ以外のデメリットはないと思っていたが、まさか離れると癇癪を起こすとは……。 「二年くらい会えません」なんて言ったら、絶対にまた泣きわめくだろう。 そうなったら父の監視どころではない。
オズワルド→陛下に伝わる。 陛下→父に伝わる。 →父の行動パターンが変わる。 これではイベントの発生ポイントを正確に割り出すことはできない。
(ああもう、どうしたらいいんだよ!)
「すぴー」
能天気に眠りこけるオズワルドを膝に乗せたまま、私は頭を抱えた。
(こういう時に選択肢! 何か出てこないのか!?)
そう願って虚空を睨みつける。 しかし、いつまで経ってもあの透明な窓が現れることはなかった。
おまけ 家庭教師の視点
「ぶぞtぎ! いふtあいttじddおに!」 「ごめんなさい。どうしても外せない予定ができてしまって」 「おぎぼいさじぜくあどごnnじぇあいあごu!」 「はい。私もできればオズワルド様を優先したかったのですが、父がどうしても許してくれなくて……」
(どうして普通に会話ができているのかしら……)
家庭教師は首を傾げた。