最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#107 第十一話「下町の人気者」


「あらリズ。おでかけ?」 「うん。ちょっとねー」

 例の日になり、リズベラは休みを利用し街に繰り出そうとしていた。  それ以前の日に先んじて情報を引き出そうとしたが、はぐらかされてしまった。

「ていうか聞いてよ。私、とんでもない情報掴んじゃったかも」 「え、なになに。聞きたい!」 「まだ内緒」 「えー!? けちぃ」 「ごめんごめん。帰ってきたら一番に教えてあげるね」 「分かったわ。なるべく早く帰ってきてよね!」

 意味深なことを同僚に話し、リズベラは外に出た。

(おっと。私も早く行かないと)

 リズベラが門を出たことを見送ってから、裏庭へと急ぐ。  正門から出ると門番に呼び止められてしまうので、秘密の裏道を使って外に出る。

 ここは代々イグマリート家当主しか知らない秘密の通路だ。  当主に危機が迫ったときの脱出路として掘られた地下道だが、まさかそれが浮気のために使われているなんてご先祖様が知ったらどう思うだろうか。  もう慣れてしまったが、浮気を発見した当初はあまりの情けなさに涙したことを思い出す。

「ソフィーナ」 「待たせた」 「ううん、大丈夫」

 待ち合わせしていたノーラと合流する。  下町は知り尽くしているつもりだが、ノーラのほうがより詳しい。  そして一人で追いかけるよりは二人の方が見失いにくいだろう、という理由により、一緒について来てもらうことにした。

「リズベラは……いたいた」 「あれがリズベラさん? 確かに見たことないなぁ」

 露店街をふらふらと歩くリズベラ。  普段のメイド服姿に慣れているため、私服姿はかなり新鮮に映った。

「ソフィーナの家って、使用人さんは何人いるの?」 「今は三十四人だったかな」

 時期によって多少前後するが、だいたい三十~四十の間を行ったり来たりしている。  イベントに関係するのはリズベラだけなので、他は誰が入ろうと辞めようとあまり気にしていない。

「そんなにいるんだ!?」 「なんだ、どうした」

 目を丸くさせてから、私をじぃ、と見やるノーラ。

「いや……初めて家にお邪魔したときも思ったけど、改めてソフィーナってすっっっごいお嬢様なんだなぁって」 「そんなことはない」

 私はモブキャラだ。  神が『たまたまそういう設定で配置した』だけ。  奴らの気分次第で使用人になっていたかもしれないし、もしかしたら別の国の奴隷だったかもしれない。

「そんなことはいいから、リズベラをちゃんと見張って――」 「どうしたの、ソフィーナ?」

 露店街をふらつくリズベラ。  何か買うものを探しているのかと思っていたが、どうも動きがおかしい。

 店先に並ぶ品物をじっくりと見ては隣の店に移動し、また見ては移動し……を繰り返している。  その視線は、目の前の品物を見ているようで見ていない。

 彼女が意識を集中させているのは、露店街の雑踏を歩く人々。

「誰かを尾行している?」

 気付かれないよう、品物を見ているフリをしている。  彼女が誰に狙いを定めているのか、この人の多さでは分からない。

「あ、脇道に入って行ったよ」 「追うぞ」

 リズベラが露店街を出た。  私たちも後を追おうとして、声をかけられる。

「ノーラちゃん」 「っ、おばさん。こんにちわ」

 振り向いた先にいたのは、中年で恰幅のいい女性だ。  どうやらノーラの知り合いらしい。

「こないだはありがとねぇ。アンタのお父ちゃんはホントにいい職人さんだよ」 「こちらこそいつもご贔屓にしてもらって、ありがとうございます」 「おや? そっちのお嬢さんは……」 「私のお友達です」

 ノーラが手を向けると、中年女性は私のほうに目を向けてきた。  早くリズベラを追いかけたいが、変な動きをしてノーラの株を下げたくはない。  頭を下げ、大人が好みそうな笑みを浮かべる。

「こんにちわ」 「こんにちわ。遊んでいる途中だったのかい。邪魔して悪かったねぇ」 「いえいえ」 「ノーラちゃん。また今度、家族みんなでウチにおいで」 「はい。そうさせてもらいますね」

 空気を読んでくれたのか、中年の女性は早々に話を切り上げてそそくさと去って行った。

「誰なんだ?」 「うちの向かいに住んでるドレナおばさん。食堂をやってて、すごくおいしいって評判だよ」 「まあいい。追いかけるぞ」 「うん」

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 思わぬ足止めを食らってしまったが、時間が短かったこともありリズベラを見失わずに済んだ。  露店街ほどではないが、今日はやけに人通りが多い。  そのせいで彼女が誰を追いかけているのか、未だにはっきりしない。

「ソフィーナ、こっちだよ」

 ノーラに手を引かれ、細い路地へと入る。  いや、道というよりは単なる家と家の隙間だ。  私一人じゃ絶対に見落としているような道を、ノーラはすいすいと選び、入っていく。

 リズベラを見失わずに済んでいるのも彼女のおかげだ。  しかし、ノーラがいることで弊害もあった。

「おうノーラ。今日はお手伝いは休みか?」 「っ。おじさん。うん、今日はお友達と遊んでるの」 「そっか。元気なのはいいことだ!」

「ノーラお姉ちゃん! 遊んで~!」 「ごめんね。今日は先約があるの」

「あ、ノーラ! こんな日に君と出会えるなんて、今日はなんていい日だろう! どうだい、僕とドレナおばさんの食堂でお茶でも――」 「急いでるから、ごめんね~」

 道を曲がるごとにノーラが声をかけられている。  そのたびに足を止めて時間を食われてしまう。

「人気者だな」 「お父さんの配達であちこち行ってるから、そのせいだよ」

 それだけでここまで声をかけられることはないと思うが。  というか最後に声をかけてきた男子、明らかにノーラを……。  いや、それより今はリズベラだ。

 そんなことを繰り返しているうち、徐々に人気が少なくなっていく。  おかげで、リズベラが誰を追いかけているのかもはっきりした。

「あの人を尾行してるみたいだね」 「ああ」

 茶色く長い髪をした女性。  一見すると何の変哲もない一般市民だが『リズベラが尾行している』という状況から推測すると、相手が誰かはすぐに分かった。

「おそらくあの女が、父の浮気相手だ」

 これからリズベラは、あの女と父が繋がっている証拠を掴むのだろう。  その後『不幸』に遭うのか、誰かの『意志』によって殺されるのか。

 それをこれから見極める。