最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#168 第十五話「まさかの方法」


 セラ・フィンランディ。  十三歳。四大侯爵家のひとつ、フィンランディ家長女。  家族構成は父、母、兄、弟、妹。

 お姉様に対する直接・間接的な被害なし。

 学園卒業後、宮廷魔法使いの試験に二度挑戦するも、突破できず。  三度目の試験前に失踪。

 道中こそルートによって変化するものの、彼女が辿る末路はすべて同じだ。

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「これが、私が知るセラのすべてだ」

 ノーラに知っている限りの情報を話す。  記憶の引き出しと、彼女ならではの視点で気付くことがあるかもしれない、という期待も込めて。

「レイラとはセラさんは、普段はどういう接し方をしてたの?」 「無干渉だな」 「こないだソフィーナにしてきたチクチク言葉もなし?」 「ああ」

 同級生なのだから多少の関わりはあるかと昔は思っていたが、ない。  本当に、まったくないのだ。  まあ、専攻している科が違っていた――以前のお姉様は剣術科を取っていた――から、共通の授業でしか顔を合わせなかった、ということもあるだろうけども。

 ただ、だからと言ってお姉様に好意的という訳でもない。  露店のトラブルから予想するに、セラは面倒ごとを嫌うタイプだ。  お姉様と関わると余計な騒動を招くかもしれない。そう思って、あえてお姉様と距離を取っていたのだろう。

 お姉様もそういう雰囲気を察してセラとは距離を置いていた。

「失踪した後はどうなるの?」 「知らん」

 お姉様に害がないと分かった時点でセラに対する興味はほとんどなくなった。

「ソフィーナ冷たいよ~」 「余計なヤツのことまで覚えてられるかっ」

 無関係の相手に記憶容量を割けるほど、私の頭は優秀じゃないんだ。

「それで、どうだ。何か気付いたことはないか?」 「さすがに情報が少なすぎて、なんとも……」

 指を上手に動かしてペンをくるくると回すノーラ。  器用だなぁ、と場違いな感想を抱いてしまった。

「そういえば。フィンランディ家の人って、ソフィーナに求婚してくるんだよね」 「ああ」

 言い方を選ばずに言うと、あの家の人間はみんな魔法バカだ。  とにかく魔法、魔法、魔法。  何をするにせよ、しないにせよ、すべて魔法が関係してくる。  もちろん、結婚相手も。

 魔法は血統との相関関係が強いため、婚約者にも高い魔法の素養を求められる。  彼らが配偶者に求めるものは地位でも金でもなく、魔法なのだ。

 そういう結婚観なので、婚約者よりも強い相手を見つければ、すぐさま鞍替えしようとしてくる。  貴族の結婚に情がないことは当たり前だが、あの家ほど徹底しているところも珍しい。

「スイレンさんが才能のある子供を潰そうとするのも、フィンランディ家のせい……だったよね」

 お姉様の元・家庭教師スイレン。  彼女も魔法の実力を認められ、フィンランディ家の人間と婚約した。  しかし婚約者がより強い魔法使いと出会ったため、すぐに婚約破棄されてしまった。

 そのときの経験がトラウマとなり、彼女はおかしくなってしまった。

「……」 「ノーラ?」 「なんだか、フィンランディ家が悪の親玉みたいに思えてきたよ」

 ノーラが顔をくしゃりとさせる。

 悪の親玉……か。  まあ、あながち間違いではない。

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 セラだけはお姉様に危害を加えない存在。  その不文律は、前回のシナリオで壊されてしまった。

 私の手元にある情報だけでは、セラの凶行の理由は分からない。  さらに探りを入れる必要がある。

 今回の件はリズベラに頼むわけにはいかない。  私がフィンランディ家のことを知りたいなんて言ったら、どんな邪推をされるか分かったものじゃない。  そして、この年齢では情報屋も使えない。彼らは守銭奴だが、それよりも信用を重んじる。  いくらお金を積んだとしても、子供には何も教えてくれない。

 他が使えないなら――自分の足で調べるしかない。

「と言ってもなぁ……」

 場所は変わり、私たちはフィンランディ領のすぐ近くまで来ていた。  王都の外とは違い、中に明確な境界線はない。

 ただ、王都を囲うようにして四方に建つ公爵家の方角を便宜上、○○領と呼んでいるだけだ。  便宜上イグマリート領と呼ばれる区画は北に位置しており、同じく便宜上フィンランディ領と呼ばれる区画は東にある。

 今いる街道を進み切った先は、相手の陣地だ。  念のためフード付きの上着で顔を隠しつつ、街道をまっすぐ進む。  突き当たりを曲がれば、フィンランディ家の屋敷がある。

 さりげなく前を通るフリをして、家の中の様子を伺う。

(門番と番犬……しかも塀はこの高さ。侵入は無理だな)

 首が痛くなるほど高くそびえる塀が、私たちに睨みを効かせているように錯覚した。  正門のすぐ側には、張り紙がいくつか貼られていた。

 貴族の屋敷では、門の一部をああやって掲示板代わりに使用したりすることがある。  イグマリート家では外観を損ねるという理由でやっていないが、採用している家は多い。

(セラの個人情報とか張り出されてたら楽なんだけどな……)

 もちろんそんな訳はない。  大方、仕事の募集とかだろう。  細かな文字を追おうとしたが、門番の視線を感じたので中断した。

 そのまま正門を通り過ぎ、塀を背にして座り込む。

「やっぱり、突破口はなさそうだな」

 以前ならまだしも、Bルートでの私の立場は王族の婚約者。  顔は知れ渡っているだろう。  無邪気な子供のフリをして門番から情報を聞き出すこともできない。

「そうだ。ノーラのご近所さんが情報持ってたりしないか? 確かすごい情報通だったよな」

 当時、一部の貴族しか知らなかったはずの私とお姉様の婚約者交代の件を知っている人物がいた。  彼女ならフィンランディ家のことを知っていても不思議はないかもしれない。

「聞いても無駄だと思うよ。おばさんは恋愛絡みのことしか興味ないから」 「だよなぁ」

 ダメ元とは分かりつつ、肩を落としてしまう。

「……ねえソフィーナ。ちょっと考えたんだけど」 「なんだ?」 「あのね、さっき塀に――」

 ノーラがそう切り出した瞬間、快晴のはずの空に影が差した。  鳥にしては大きすぎる。  慌てて空を見上げると、少年が風に乗って塀を飛び越え、音もなく私たちの前に着地した。

「こそこそ話し声がすると思ったら、なんだお前らは」 「――げ」

 よりによってこいつに見つかるとは。  私はフードの下で顔をしかめた。

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 私たちの前に降り立ったのは、まだ年端もいかない子供だった。  身長はオズワルドよりも低く、生意気盛りが表情にこれでもかと表れている  彼の名前はルシアン。

 フィンランディ家の次男で、将来、私の同級生になる少年だ。  風に乗ってきたことから分かる通り、風魔法に適性を持っている。

「騒がしくしてごめんなさい。すぐに離れますので」 「ん? そっちの小さい方。フードを取って顔を見せろ」 「いえいえ、お見せするようなものではございませんので」 「待てって言ってるんだ!」

 そそくさとその場を離れようとしたが、進路を阻まれてしまう。

「怪しいヤツだな。僕が見せろと言ったら見せろ!」

 傍若無人かつ傲岸不遜に腕を組むルシアン。  誰かさんオズワルドの顔が脳裏をよぎり、こめかみに青筋が浮かんでしまう。

「ご、ごめんなさい!」

 どう返事をしたものかと思案していると、ノーラが私を庇うように抱きしめた。

「この子、ちょっと人見知りでして。顔を見せるのはどうか許していただけませんか?」 「ダメだ!」 「私の妹なんです。だから顔つきも私とほとんど同じなので……」 「そう言われると余計に見たくなる!」

 ノーラの懇願に、むしろ意欲を増すルシアン。  先のルートでもそうだが、こいつは人の嫌がることを嬉々としてやるタイプだ。

「おら、さっさと見せろ! 魔法も使えない平民が、フィンランディ公爵家次男である僕の命令に逆らうってのか!? パパに言いつけるぞ!」

 ……ここでフードを取れば、セラのことを調べるどころではなくなる。  かといって、ルシアンをやり込めて逃げることも不可能だ。

 何の収穫もなかったが、仕方がない。

「分かりました。取りますよ」 「最初から素直にそうしろ!」 「顔を見たら、家に『戻って』くださいね」

 例の言葉を放つと同時に、フードを剥ぎ取る。

「――!? お前、ソフィー――――」

 景色がぐにゃりと歪み。  セーブポイントへと意識が飛んでいく。

 ▼ ▼ ▼

「やっぱり一筋縄ではいかないな」

 顔が割れている状態での調査は困難だ。  それでも他に手がない以上、地道に突破口を探すしかない。

「また、しばらくループを続けることに――ノーラ?」 「ソフィーナ。私、突破口を見つけたかも」 「なんだって?」

 そういえばループ前、何かに気付いた素振りを見せていた。

「ソフィーナは顔が割れているから難しい。他の人を頼ることも難しい。だったら――」 「だったら?」

 もったいつけたように一呼吸置いてから、ノーラは自分の胸を叩いた。

「私が調査すればいいんだよ」 「……どうやって?」

 もっともらしい提案ではある。  しかしノーラもあの区画は部外者扱いだ。  コミュ強だから、私よりも効率的に情報収集はできるかもしれないが……それがセラに繋がらなかったら何の意味もない。

「さっき、門の前に張り紙があったでしょ?」 「ああ」 「あの中に、セラさんの専属使用人募集の張り紙があったの」 「……ちょっと待て。まさか」

 外で情報収集するのではなく、中で直接探りを入れる。  ノーラは深く頷いた。

「そのまさか。レイラを襲った原因が分かるまで、私がセラさんの専属使用人になる」