最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#46 第七話「登場」


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 あのプレゼントで満足してくれないなら、次はもっと大きなものを持っていくわ。

 『ヒロイン』より

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 以前と同じ、少女と思しき柔らかな筆跡でそうつづられていた。  文章は短いものだが、そこに含まれる情報は多い。

 まず、ヒロインは私と同じ人生を巻き戻す能力を持っている。  手紙は、以前の続きとして書かれている。  前回の人生を覚えていなければこんなに早く手紙が来ることもないため、これは確定だろう。

 そして、プレゼントという単語。  こいつは、何かを私にプレゼントしたらしい。  敵対している相手なのだから、そのままの意味では受け取れない。  何か、私が嫌がるものを送って来た、ということだろう。

「……魔物」

 すぐに思い浮かんだのが、お姉様と家庭教師を襲った魔物だ。  魔物に遭遇した、ということになっているが。

 ――もしあれが、人為的に用意されたものだとしたら?

 ――それを用意したのがヒロインだとしたら?

 手紙の意味は、こういう風に解釈できる。

 物語通りにしないというのなら、レイラを殺す。  今回は魔物だけで済ませた。  しかし次も足掻こうとするのなら、もっと酷い目に遭わせてやる――と。

「ふざけやがって……!」

 私は手紙を握り潰し、床に叩きつけた。  それでも怒りは収まらず、二度、三度とそれを踏みつける。

「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって!」

 物語通りに進めろ?  仮にヒロインに従いこの場を切り抜けられたとしても。  物語通りにいけば、どの道お姉様は死んでしまうだろうが!

 お姉様など自分の引き立て役でしかないと言わんばかりの傲慢さに、私は憤慨した。

「はぁ、はぁ……」

 荒く、浅くなる呼吸を深呼吸に切り替え、気分を落ち着かせる。  ここで暴れても何の解決にもならない。

 早急に対策を練らなければ。

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 私は両頬を強めに叩いて意識――無限に湧き上がるヒロインへの憎悪――を切り替える。  そう簡単に割り切れるものではないが、とにかく今この瞬間だけは彼女に対する感情を忘れ、事実だけを見据えるよう自分に言い聞かせる。

 次に、引き出しの中からノートを取り出す。  高確率で起こる死亡イベントの詳細などを、人生をやり直す度ここに書き記すようにしているのだ。  これは反復して書くことで記憶に強く定着させ、うっかり忘れてしまうことを防止するためだ。

 お姉様を魔物から守るには、あの日魔法の授業を受けさせなければいい。  都合のいいことに、前日にそれ向きの選択肢がある。

『レイラをお泊りに誘いますか?』

 あの日、お姉様も城に来ていれば郊外に行くことはない。  魔物襲撃そのものが起こらなくなるはずだ。  これだけだと他の日に行ってしまう可能性があるので、スイレンに魔法訓練のスピードを緩めてと頼まないようにしておく。

 少しだけお姉様の身体が心配だけれど、スイレンならば途中でやりすぎていると気付いてくれるだろう。  これで魔物に関しては大丈夫だ。

 しかし、ヒロインは『物語の改変を止めないなら今後も邪魔し続ける』と宣言している。  止めるためには――ヒロインの排除が必須となる。

「まずはヒロインの居所を突き止めないとな」

 乱雑に書き殴った中で要点となる部分をノートにまとめていく。

 ヒロインにこちらの居所はバレている。  である以上、行動は筒抜けと思っておいた方がいいだろう。  オズワルドの婚約者の立場を一度お姉様に戻し、従うフリをする。  彼の婚約者でなければ、かなり自由時間が増える。  その時間を、ヒロインの捜索に充てる。

 ヒロインを見つけ出し次第、戻ってから今のルートにやり直し、その過程のどこかでヒロインを排除する。

 普通の相手であれば、これで万全だ。

「いや、これじゃ不十分だ」

 私はすぐにかぶりを振った。  相手はヒロイン。この世界の中心人物だ。  そんな簡単に排除できるはずがない。

 ヒロインは私と同じやり直しの能力を持っている。  全く同じ能力なら私が死んだ時と同様、ヒロインが死んだ瞬間、自動的に能力が発動する可能性が高い。

 そもそも神の寵愛を受けているのだから、『絶対に死なない』なんて能力を持っていてもおかしくない。  心情的には消したい相手だが、悪手になりかねない。

「殺すのは駄目だな。となると……監禁する方がいいか」

 どこかに閉じ込め、一生をそこで過ごしてもらう。  ただ監禁するだけでは不十分だ。  私と同じように能動的に人生をやり直せるはずなので、行動を制限する必要がある。  記憶をアンインストールできれば盤石なのだが……あの魔法をこの年齢で使うことはできない。  そもそも、補助装置となるアーティファクトが手に入らない。  あれは十年後、とある露店で売りに出されるまで所在不明なのだ。

 問題はまだある。  対策を練り、うまくヒロインを封殺したとする。  そして物語を進め、失敗したとする。

 その場合、次は同じ手を使えなくなる。  ヒロインは記憶を引き継いでいるのだから、同じやり方で素直に捕まってはくれないだろう。  逃げるか、あるいは向こうから先に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

「……なんて厄介な相手だ」

 これまで私は幾度となく強敵と相対してきた。  屈強な盗賊。他国の暗殺者。そして公爵家の面々……。

 それらと比べても、間違いなく最強の敵だ。

 どうすればいい?  どうすれば、こいつからお姉様を守れる?

 どんな方法を思いついても、二度目には通用しなくなる。  それは数多くの失敗を重ねてひとつの活路を見出す私のやり方を完全に封殺してしまうものだった。

「説得して仲間に引き入れるか? いや、応じるとは思えない。金を積んで黙らせる? いやいや、そんなもので揺れ動くとは考えにくい……」

 私は数日間、考えに考え続け――。

 またしても熱を出した。  本当に、幼少期の私は虚弱が過ぎる。

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 どうせ戻るつもりだったので、早々に私は人生をやり直した。

「今までは幼馴染だったけれど、これからは婚約者としてよろしくね、オズワルド」 「ふん! しっかり僕を支えるんだぞ!」

 悩んだ末、一度本来のルートに戻ることにした。  ヒロインをどうするかに多くの時間を割いて悩んだが、見つけられなければ意味がない。

 まずヒロインがどこに潜んでいるかを探し出すことだけに注力する。  このルートでは私の空き時間はたっぷりある。  学園に入学する前までには見つけ出そう、と目標を定めた翌日。

「私がヒロインだよ」

 ――そいつは唐突に、私の前に現れた。