最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#50 第十一話「誤解」


「セーブ能力……?」

 これまでにないメッセージに、私は戸惑いの声を上げた。

 セーブ。  字面からすると、何かを守ったり助けたりできる能力だろうか。  なんて思っていると、ノーラが解説を入れてくれた。

「途中経過を記録する、っていう機能だよ」 「あ、そっちの意味か」

 どうやら神々の世界では、下位世界で起きた出来事を『保存』する意味でセーブという言葉を用いるようだ。

「ということは、つまり」 「いつもはスタート地点まで戻ってたでしょ? けれどセーブを使えば途中から再開できる」 「!」

 願ってもない能力だ。  これまでは十八歳のときに起きるAというイベントの選択肢をひとつ変えるだけで五歳からやり直していた。  しかしこのセーブ能力があれば、過程は保存されたまま再開できる。  自分主観で相当な時間短縮になるし、稀に起こるラッキーなイベント――父の商談がたまたま成功し、お姉様の生存が有利になったり――も、意図的に起こして保存できる。  お姉様を直接救うものではないが、強力に後押ししてくれる便利な能力だ。

「……っていう意味だと思うよ。たぶん」 「なんだその歯切れの悪い言い方は」 「私も初めて見たから。それに前世のゲーム知識がまんま当て嵌まるとも限らないし」

 『ゲーム知識』とやらが正しければ、セーブ能力は今の説明で合っている。  ただノーラの前世と今世で意味が違っている可能性もある。

「使ってみないと分からないってことだな」 「そうだね」 「じゃ、早速実験してみるか」

 いざというときスムーズに発動できるよう、先に効果を確かめておこう。

「……」 「……」

 しばし見つめ合っていると、ノーラの頬がだらしなく緩んでいく。

「はぁ……ソフィーナちゃん可愛いなぁ」 「そういうのはいいから。早くしてくれ」 「何を?」 「セーブ能力。使ってみてくれ」 「私は使えないよ?」

 少しの沈黙を挟んだ後、私達は同時に互いを指さす。

「ソフィーナちゃんが使えるようになったんじゃないの?」 「ノーラが使えるようになったんじゃないのか?」

 私はループと選択肢、二つの能力の主導権を握っている。  だからセーブ能力はノーラに主導権が渡ると思っていたのだが、どうやらノーラはこちらが持っていると思っていたようだ。

 そこから調べる必要があるのか。

「私から試してみよう。セーブってどうやるんだ?」 「うーんと。前作を踏襲しているなら、メニュー画面からセーブできると思うんだけど」 「メニュー画面ってなんだ?」 「自分のパラメータとか、経過日数とか、移動先とか、好感度とかが見られる画面のことなんだけど……見たことない?」 「ない」 「ステータスオープンとか言ったら開くかも?」 「ステータスオープン!」

 ……。  ……。

 私の声は、虚しくこだました。

 ▼

 あれから色々試したが、結局セーブ能力は発動しなかった。  選択肢のように唐突に出てくるタイプなのかもしれない。

 ループのように任意で発動できればこのクソゲーもかなり難易度が易しくなったんだが、そう都合良くはいかないらしい。  常々思うが、やはり制作者かみさまはクソだ。  そういう能力を得た、ということだけを頭の片隅に置いておくに留める。

「まずは現状を聞かせてもらってもいい? ソフィーナちゃん」 「その、ちゃん付けするのはやめてくれないか」

 どうもむず痒い。  さっきから気になっていたが、言うタイミングがなくてずっとそのままになっていた。

「照れてるの? かわいい~!」

 ノーラはにやにやしながら私を抱きしめた。  スキンシップが激しい奴だ。  悪意があるわけじゃないし、相手は同性だ。  別に嫌な気はしない。  しない、が……。

「やっぱり貴族のお嬢様は髪がツヤツヤだねー。お肌ももちもち! いい匂いするけど、香油は何使ってるの――って、私じゃ買えないか」 「……そろそろ離してくれ」

 言わないといつまでもくっつかれそうだ。

「あ、ごめんね。ソフィーナちゃ――ソフィーナ、抱き心地がいいから」 「……」

 褒められているのだろうか。  まあ、悪い気はしないからいいか。

「まあいい。とりあえず、今の状況説明を――」

 いざ本題に入ろうとしたその瞬間、狭い空間に眩い光が差した。

「いたぞ! ソフィーナお嬢様だ!」 「へ?」

 振り返ると、門番と護衛の男たちが狭い出口を包囲していた。

「この、誘拐犯めぇ!」 「ひぇええええ!?」

 狭すぎて入れない路地に、護衛たちが出口から腕を伸ばしてノーラの首元を掴む。

 ……すっかり忘れていたが、今は例の誘拐犯が捕まった直後だ。  護衛たちが警戒を強めている中、私は脳天気に見ず知らずの平民と長時間外出していた。  門番達が心配して捜してくれたとしても無理のない話だ。  そして、私を連れ出したノーラが誘拐犯と勘違いされるのも当然と言えた。

「怪しい奴め! 子供だからといって容赦せんぞ!」 「ひぃー!? ごごご誤解ですぅー!」

 護衛に首根っこを掴まれ、宙ぶらりんにされるノーラ。

「お怪我はありませんか? ソフィーナお嬢様」 「ええと……はい」

 門番や護衛たちが私の身を案じてくれているのは分かる。  分かるが……今はノーラと話を進めたかった。

 ノーラが誘拐犯ではないと説得しても、要注意人物として今後は接触禁止を言い渡される可能性が高い。  私が彼女を信頼していても、他の者からすれば「ソフィーナを連れ出した怪しい少女」というレッテルはそう簡単に剥がせない。

 ならばどうするか。  この出会いを、やり直せばいい。

「ノーラ!」 「ななな、なになに!?」

 宙吊りのままどこかに連行されそうになっているノーラに、私は声をかけた。

「一度戻るから、同じ日にまた来てくれ。次は家に招待する」 「わ、分かった!」

 謎の会話に、護衛や門番は頭に「?」を浮かべている。  それらを無視して、私はいつもの言葉を呟いた。

「――戻れ」