最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#63 SS No2「傀儡師も楽じゃない」


「右手上げて」

「左手上げて」

「そのままダンス」

 私の前で、オズワルドが両手を上げたままステップを踏む。

「よし、成功だ」

 無言かつ無表情なのはなんとも不気味だが、私は満足していた。

 お姉様を殺す数々のイベントをねじ伏せてきた私は、戦争イベントで長らく行き詰まっていた。  国同士の争いは多数の思想が入り乱れる。  ゆえにこれまでのイベント以上に、未然に防ぐということが重要となる。

 重ねてきた失敗を通じ、戦争の原因の大半はオズワルドであることが判明した。  このクズは国外追放すればすぐさま女に籠絡され、知っている機密事項をペラペラと話す。  国内で殺しても諸々の問題が噴出し戦争に発展。  残る方法は首輪を付けて従えることだが、暴力や脅迫の類は厳禁。  何から何まで厄介の塊だ。

 解決策を模索した私は、人格を入れ替える方法を思いつく。  数度の人生を使ってその手法を確立し、今それがようやく身を結んだ。

 オズワルドを完全制御下に置けば、どれだけ魅力的な相手の籠絡にも対応できる。

「よし……! 今度こそは」

 戦争を防ぎ、お姉様を助けられる。

 なんて希望を抱いたのはほんの束の間。  アンインストールにどのような弊害があるか、この時点の私はまだ理解していなかった。

 ▼

 オズワルドに知識を叩き込み、外交官として仕立て上げる。  文句を言うことなく淡々と知識を吸収するオズワルド。  アンインストールの効果か、はたまた王族の血がそうさせるのか、覚えは良かった。

「おい、表情が固いぞ。もう少し笑え」 「はっ」

 オズワルドは笑みを浮かべる。  それはもともとの彼がよく浮かべていた、ゲスな笑い方だ。

「その表情で私を見るな」

 腹が立って仕方がない。

「そんな気持ちの悪い笑い方じゃなく。もっと自然に、優しく笑え」 「情報が不足しています。見本の提示を」 「はぁ?」 「情報が不足しています。見本の提示を」 「わかったわかった! 2回も言うな!」

 私は鏡を見て、オズワルドに合いそうな表情を見繕う。

「こうだ。これが優しい笑い方」 「……」 「そうそう。それでいい」

 表情さえなんとかすれば後は代々受け継がれる美形がうまく補正してくれるだろう。

 ▼

 オズワルドと結婚した私は、すぐに住居を移した。  人と接するにはまだぎこちなさが目立つためだ。  とはいえ二人だけで生活を維持するのは不可能なので、最低限のメイドだけは雇わなければならない。

「旦那様、おはようございます。朝食の用意ができております」 「……」 「シーツを取り返させていただきますね」 「……」 「あの、旦那様……?」 「状況が不明瞭です。希望する反応を設定してください」 「え?」 「状況が不明瞭です。希望する反応を設定してください」

「だあぁー!」 「ひゃ!? お、奥様……!?」 「昨日も執務で徹夜だったから、疲れてるの! この部屋は後回しにしてくれる!?」 「は、はい」

 困惑するメイドを部屋から追い出し、私はベッドの上でぼーっとしているオズワルドの胸ぐらを掴んだ。

「なんでだ! 朝の行動はちゃんと設定しただろうが!」

 人格をアンインストールしたオズワルドはあらゆる命令を聞く。  しかし、命令者がいない場合は今のように固まってしまう。  それを防ぐために予め「こういう反応が来たらこう返せ」や「この時間になったら指定した行動をしろ」と設定しているのだが、今回はそれがうまく行かず命令待機状態になってしまった。

「洋服の柄が変更されておりました」

 前回は洋服をしまう位置が少しズレていただけで硬直していた。

「柄くらい変わるわ! それくらい自分で判断して適切な行動をしろ!」 「了解しました。では、判断する基準と適切な行動を設定してください」 「こんの……ッ!」

 ああ言えばこう言う。  以前のオズワルドと反応は違うものの、苛立ち具合は同じだ。  私はオズワルドをベッドから引きずり出し、ガクガクと揺らした。

「言い訳をするなこのデク人形が!」

「失礼します奥様。他の部屋が終わりましたので……あ」 「あ」

 オズワルドの胸ぐらを掴んだままの私と、メイドの目が合う。  メイドはみるみるうちに表情を青ざめさせながら、

「し、ししし失礼しました」

 パタンと扉を閉めてしまった。

 ▼

 その後、私が鬼嫁という噂が燎原の火のごとく広がってしまう。  オズワルドは外交官としての資質を疑われ――上流階級では嫁の尻に敷かれている=仕事ができない奴、というレッテルを貼られてしまう――、作戦は失敗に終わった。

「こんな失敗の仕方があるかぁ!」 「……」

 項垂れる私の前で、オズワルドはただぼんやりと虚空を見つめていた。

 BAD END(笑)