最愛のお姉様が悪役令嬢だったので、神が定めた運命(シナリオ)に抗います

#94 第二十九話「トゥルーエンド」


 ノーラが抱いていた違和感の正体。

「間違ってるかもなんだけど」 「構わない。教えてくれ」

 ループ回数を重ねても分からないことの方が多いんだ。  たとえ予想程度でも、情報はあるに越したことはない。

「うーんとね。どこから話そうかな」

 ノーラは口をもごもごさせながら、手をしきりに合わせている。  緊張しているときの彼女の仕草だ。  もはや知らないことがないような間柄なのに、何を緊張することがあるんだろうか。

「いやに勿体ぶるな。どうしたんだ」 「今後のシナリオの進め方に関わるかもしれないから」 「? どういう意味だ」

 手をもじもじさせたまま、ノーラは自信なさそうに告げた。

「単刀直入に言うとね。このシナリオの正解ルート……私、知ってるかも」 「教えてくれ!」

 ノーラが言い終える前に両肩を掴み、揺さぶった。

「どうすればいい!? どうやればお姉様は幸せになれる!? 何でも差し出す! 何でもする! 教えてくれ!」 「わ、わ、わ。言う! 言うから落ち着いてぇ~!」

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 揺らし過ぎたせいで目を回しているノーラが落ち着く間、私も深呼吸を繰り返して気分を落ち着かせた。  神々と同じ世界からやって来たノーラが言う『正解』は、他の人間が言う正解とは意味合いが全く違う。

 ともすれば、あっさりとお姉様が幸せになれるルートを構築できるかもしれない。  そんな期待を抱くなと言うほうが無理な話だ。

「ごめん」 「ううん、もう大丈夫」 「こっちも聞く準備はできた」

 心臓の高鳴りは抑えられていないが、少なくとも頭は冷静だ。  私は姿勢を正し、ノーラに居直った。

「どこから話そうとかと思ったけど、ややこしくなりそうだから最初から話すね」

 そう断りを入れてから、ノーラは語り出した。

「ここは乙女ゲームの世界っていうのはソフィーナも知るところなんだけど、ナンバリングタイトルの二作目っていう話をしたのは覚えてる?」 「言っていたな」

 ノーラは一作目のファンで、二作目が出たと同時にニホンで死んだ。  だから選択肢やフラグなど神が定めたルールについては詳しいが、ストーリーについては触りしか知らない……と、出会った直後に言っていたと記憶している。

 『薄幸の乙女』

 それがこのゲームの題名だ。  ⅠとⅡがあり、登場人物も何もかも違うがストーリーラインは同じ。  不遇な生活を送っていた少女がとあるきっかけで普通の生活を取り戻し、成長した頃に素敵な男性と恋に落ち、幸せな結末を迎える。

「乙女ゲームの基本として、攻略対象それぞれ独自のルートがある。これも知ってるよね」 「ああ」

 攻略対象が五人いれば五つ、シナリオは分岐する。  彼らのうちいずれかと結ばれればエンディングを迎えることになる。

「このゲームが他と違うのは、重要人物でも割とあっけなく死ぬところ」

 前作では、攻略対象①のルートに入ると②や③が、②を攻略していると①や④が死ぬようになっていた。  女性が幸せになることが大前提の乙女ゲームにおいて、攻略ルートから外れているとはいえ重要人物が死ぬような作品はとても珍しいらしく、そういった点で――主に悪い意味で――話題になっていた、とのこと。

 その評価を覆したのが、別のエンディングの存在だ。

「別の……エンディング?」 「うん。基本の五つとは別に、三つエンディングがあるの」

 一つ目は真エンド。  隠れた六人目の攻略対象と結ばれるエンディング。

 二つ目は逆ハーレムエンド。  攻略対象全員と結ばれ、溺愛されるエンディング。

「そして最後が、トゥルーエンド」

 トゥルーエンドは他のシナリオとは真逆で、誰とも結ばれないエンディングだ。  その代わり、物語に散りばめられたすべての謎が判明する。

「最初は誰も気付かなかったんだけど、ゲーム実況者さんが配信中にトゥルーエンドの存在に気付いて、そこから検証を始めたんだよ」

 それから数か月ほど試行錯誤を繰り返したのち、とうとうトゥルーエンドは発見されることとなる。

 謎に対する伏線回収が非常に巧妙であること。  そして何より、あれだけ死にまくっていた登場人物がそのシナリオでは誰も死なず、絵に描いたようなハッピーエンドであること。  この二つが要因となり、前作は大きく評価を覆し、多くの人に愛される作品となった。

「前作と今作は違う国を舞台にした物語だから気にしてなかったんだけど、シナリオライターさんは同じ人なんだよ」

 シナリオライター。  構築された世界で繰り広げられる物語を紡ぐ役割を持つ神のことをそう呼ぶらしい。

 人間のように、神々にも癖というものがある。  同じ魔法を覚えても人によって戦い方が変わるように、シナリオライターにも物語の癖が存在する。

「…………つまり、こう言いたい訳か?」

 私はノーラの言葉を引き継いだ。

、と」

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 ノーラは今作のストーリーについては触りしか知らないが、当事者となることである程度は体験している。  少なくとも彼女の観測範囲では人は死んでいない。  だから今作はそれが標準だと思い込んでいた。

 死亡集を見たときに感じた違和感とは、正確に言えば前作のシナリオライターの、物語の癖を思い出させる懐かしさのようなものだ。  それがうまく言葉にできなかったため、違和感として記憶に残った――という訳だ。

「今言ったことは全部私の妄想で、存在を証明することはできないんだけど……」 「いや、試す価値は十分にある」

 上位世界の見地から物事を考えられるノーラの意見はとても貴重だ。  私では絶対に気付くことのできなかった発見だ。

 トゥルーエンド。  そのルートを辿ることができれば、お姉様の死も回避できるかもしれない……!

「よし! 今後はそのトゥルーエンドの条件を満たすようにシナリオを動かそう」 「分かった。けど、かなり難しいよ」 「問題ない」

 これまで文字通りどんなことだってやってきた。  どれだけ強大な敵が出て来ようと、私がねじ伏せてやる。

「守らないといけないのは二つ」 「それだけでいいのか?」

 どんな無理難題を言われるかと思いきや、二つのことを守ってシナリオを進めるだけでいいと言う。  そんな簡単な条件なら、知らない間に突破していてもおかしくないんだが……。

「その一、攻略難度の高いイベントを選ぶこと」 「ふむふむ」

 学生になってからのイベントに対して、私が取っていた基本戦術は回避だ。  問題が大きくなる前に対処し、イベントそのものを起こさない。  効率的と思われたそれは、トゥルーエンドを目指す上では正反対に突き進んでいた。  ……自然と条件達成しなかった理由がよく分かった。

「ま、できないことはないな」

 面倒なイベントは起こさないようにしてはいたが、起きたとしても対処法はある。  その際に有効な解決法は、やはり殺人だ。  スイレンはなんとか殺さずにクリア(?)できたが、今後はそうはいかなくなる。  これに関してはなんとかノーラを説得するしかない。

 まあ、さすがに高難度攻略となれば許してくれるはずだ。  ――そんな私の淡い期待は続く彼女の言葉であっさりと打ち砕かれた。

「その二。イベントクリアに際し、敵の問題を解決に導くこと」

 ん。

 ん??????????

「それはどういう意味だ?」 「要は縛りプレイだね」

 ストーリーを進める上で立ちはだかる敵は、みな何か問題を抱えている。  問題があるが故に敵対という立場にある。  相手のことを知り、調べ、対話によって抱えている問題を解決に導き、敵対する理由をなくしてしまう。  この手法を取った場合にのみ、トゥルーエンドへのフラグが立つ。

 要は当人を排除せず、敵対する理由だけを排除しろ、ということだ。  追放するなどの方法はもちろんのこと、殺しなどは論外。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 あまりに荒唐無稽な条件に、私は頭がくらくらした。  無理だ。無理無理!

「スイレンはどうなるんだ!? 解決してないぞ!」

 あれがトゥルーエンドのフラグが立つクリアになっていないのなら、今の時点でもう詰みになる。

「戻って来るって言ってるから、その時に再チャレンジだね」 「あんな狂人との対話なんて無理だろ!?」 「そうだけど、Ⅰのトゥルーエンドも同じくらいの無理ゲーを攻略してようやく辿り着けるから」 「奇病のスライムは!? 煮沸消毒したけど」 「魔物はオッケーだよ。そもそも対話できないしね」

 なんとも人間に都合のいいシナリオだ。  いや、人間が作ったんだからその程度のご都合主義があって当然か。

「……」 「どうする?」

 ノーラの言ったことはすべて推論だ。  トゥルーエンドが存在するかは定かではない。  しかし。

 例え一パーセントでもお姉様が幸せになる可能性がそこにあるのなら、私の返事は決まっていた。

「やるよ。やるに決まってる」