お姉様の死亡イベントは多岐に渡るが、原因の大半はオズワルドに起因している。 幼少期の頃はワガママ放題によりお姉様の負担が大きくなりすぎたり。 成人後は他国のスパイに情報を漏らし、それが戦争に繋がったり。 他にも、他にも……数え上げればキリがない。 お姉様の人生と言う華々しいステージを穢す汚物だ。 かといって排除してしまうと、それはそれで別の問題が起きてしまう。
幼少期、両親にどれだけ理不尽なことをされても排除できないのと同じだ。 余計なことをしないよう、徹底的に管理して生かすしかない。
洗脳という手段では行き詰まった。 ――だったらオズワルド自身を鍛えるしかない。 接点を増やすために私がオズワルドの婚約者となり、一から教育していく。 便宜上、Bルートと呼んでいるこのシナリオの一番の肝となるのはオズワルドの成長にかかっている。
▼
「見ろソフィーナ! また満点だぞ!」
正規のシナリオ(Aルートと呼んでいる)では、オズワルドは勉強ができないからサボり放題だったと記憶している。 開始直後は出口の見えない迷宮に放り込まれた気分で、どうやって教育しようかと頭を悩ませていたが、現時点では存外うまくいっている。
『オズワルドに教えを乞う』 一見すると回りくどい方法だが、これをすると彼は自発的に勉強をしてくれる。 聞かれる→答えられないと恥→自発的に勉強する→身に付く、という流れだ。
意外だったのは、自発的にやればそこそこ理解が早いこと。 うまいことやる気に火さえ付けられれば、今のレベルの座学は全く問題がない。
「わぁすごい。さすがはオズワルド様です!」
私がはしゃいでみせると、オズワルドはふふんと胸を張る。 心なしか、鼻が数センチ高くなったように錯覚した。
「当然だ! 僕はこの国の将来を担う王族だからな!」 「素敵! かっこいい! 天才!」 「はぁーっはっはっは! もっと敬え、崇めろ、奉れ!」
……しんど。 だが、反応が薄いと不機嫌になりやる気を損ねてしまう。 これもお姉様を救うため。 我慢、我慢だ。
「ソフィーナ、お前は何点だったんだ?」 「私は三問だけ間違えちゃいました」 「ぷぷー! お前こんな簡単な問題も解けないのか!?」
……ぴき。と。 無意識にこめかみが疼く感覚がした。
テストの点数に私が勝ってしまった場合、オズワルドは不機嫌になる。 それを見越して数問はわざと間違えるようにしている。 手を抜いていると知ればまた不機嫌になるだろうから、この秘密を話す訳にはいかない。
「そんなことで僕を支えられるようになるのか!? もっと勉強に励めよ」 「ごめんなさい。頑張りますー!」
我慢、我慢だ……。
▼
オズワルドの年齢が一定まで上がったことで、彼には新たに運動という項目が追加された。 幼少期はイグマリート家の玄関から帰りまで、四六時中一緒にいるという拷問のような状態だったが今はそれが改善し、別行動が取れるようになった。 空いたわずかな時間を利用し、裏庭へと向かう。
「オー爺さま。こんにちわ」 「ソフィーナお嬢様。こんにちわ」
いつもの麦わら帽子をひょいと上げ、白い髭を蓄えた口元を緩める。 紆余曲折あってお姉様の魔法の師をすることになったオー爺だ。 お姉様の師の傍ら、私にも魔法の基礎を教えてくれている。 属性が違うので踏み込んだことは教えてもらえないが、経験豊富な彼から学べることは多い。 オー爺とこうして会う理由は、勉強以外にもある。
「どうですかな。レイラお嬢様の様子は」 「参考書を読んで気分を紛らわせている感じです」
スイレンのスパルタ教育を嬉々として受けた結果、お姉様の魔法はあの年齢ではありえないほどに成長した。してしまった。 際限なく成長する魔法に対し、身体の成長が全く追いついていない。
私が五歳の頃、誘拐犯を相手に魔法を使ったことを思い出す。 あの時の私は強烈な眩暈と吐き気だけで済んだが、お姉様がこのまま魔法を使い続ければその比ではないことが起きてしまう。
そういった理由により、お姉様は三年ほど魔法の使用が禁止されている。
「隠れて使っていることはありませんか?」 「だいじょーぶ、ありません」
どうやらオー爺はお姉様が我慢できなくなり、どこかでこっそり魔法を使うと見ているらしい。 それで事情を知る私に監視役を頼んでいる、という訳だ。
「そうですか。それはよかった」
私の報告を聞き、オー爺はふぅと一息ついて空を見上げた。
「レイラお嬢様は聡明なお方ですが、同時に魔法への好奇心も旺盛です。自らを省みず魔法を使うことも危惧していましたが……安心できそうですな」
オー爺の言葉に、私は曖昧な笑みを浮かべた。
魔法禁止を言い渡されてから、お姉様は何度か魔法を使いたい衝動に負けそうになっていた。 その度に私が呼び出され、衝動が収まるまで話し相手になる。
お姉様の心境や体調を考えると起きてほしくないことではあるが、内容自体は私にとってご褒美イベントだ。 それがこの二年で三十三回起きている。
……まあつまり、その回数だけお姉様は魔法を使おうとしていたわけだ。 オー爺の見立ては実に的を射ていたと言える。
「それもあと一年で終わりです。お嬢様は必ずやこの国の歴史に名を残す魔法使いになれるでしょう」 「たのしみです!」
あのオー爺にここまで言わせるお姉様の才能。 それが開花する日を、私は心待ちにしていた。